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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)1160号 判決

控訴人(附帯被控訴人) 日本糧穀株式会社

参加人 福原秀夫

被控訴人(附帯控訴人) 片柳真吉

被控訴人 三共株式会社

主文

参加人の参加申出を却下する。

控訴人の登記抹消手続請求権不存在確認の請求(反訴の一部)を棄却する。

原判決中「原告片柳の確認の請求を棄却する。」とある部分を除き、その余の被控訴人等関係部分を左の通り変更する。

被控訴人両名の請求により、控訴会社の昭和二十九年九月七日の定時株主総会における「福原秀夫、飯田百平、古沢好雄を取締役に、青柳富栄を監査役に選任する」旨の決議を取消す。

控訴人の、被控訴人片柳が控訴会社の取締役兼代表取締役社長でないことの確認を求める訴(反訴の一部)を却下する。

訴訟費用中参加によつて生じた部分は参加人の負担とし、その余の部分は本訴及び反訴につき第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の求める判決

一、控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という。)代理人は、「原判決中第一項及び第四項を取消す。被控訴人三共株式会社の請求を棄却する。被控訴人片柳真吉は控訴人会社の取締役兼代表取締役社長でないことを確認する。被控訴人等が控訴人に対し東京法務局日本橋出張所昭和二十九年九月十四日受付番号第七五六号を以てなした取締役兼代表取締役片柳真吉は昭和二十八年十一月十二日辞任したとの登記の抹消手続を求める権利の存在しないことを確認する。被控訴人片柳真吉(附帯控訴人、以下単に被控訴人片柳という。)の附帯控訴を棄却する。訴訟費用は本訴及び反訴共第一、二審を通じ全部被控訴人等の負担とする」旨、

二、被控訴人等代理人は、「本件控訴を棄却する。原判決第二項及び第五項中被控訴人片柳関係部分を取消す。被控訴人片柳の請求により控訴人会社の昭和二十九年九月七日の定時株主総会における『福原秀夫、飯田百平、古沢好雄を取締役に、青柳富栄を監査役に選任する』旨の決議を取消す。控訴人の登記抹消手続請求権不存在確認の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共全部控訴人の負担とする。」旨、

三、参加人は、「被控訴人等の本件株主総会決議取消の請求を棄却する。訴訟費用中参加によつて生じた部分は被控訴人等の負担とする。」旨

の各判決を求めた。

第二、当事者の事実上の主張及び証拠関係。

一、被控訴人等が本件株主総会決議取消請求の請求原因、控訴人の答弁に対する反論及び反訴請求に対する答弁としてそれぞれ述べた事実、控訴人が右取消請求に対する答弁と主張、及び反訴請求原因としてそれぞれ述べた事実は、左記の点を除くの外、原判決事実摘示の当該記載と同一であるから、これを引用する。(但し原判決事実摘示六の第一行目に主張(四)とあるを主張(二)と訂正する旨控訴代理人は述べた)

(イ)  被控訴人等代理人は、商法第二百四十七条第一項により株主総会決議取消の訴を提起しうる取締役中には、現任の取締役の外、当該決議によつて取締役の地位を失つた前任取締役をも包含するものと解するのが条理上からも法の精神からも正当である。本件において被控訴人片柳は昭和二十九年九月七日の株主総会の時迄商法第二百五十八条第一項により取締役の権利義務を有してゐたのに右総会において同被控訴人の任期満了を理由に后任取締役の選任決議がなされた結果その権利義務を失つたものとされたのであるから、前記商法の規定により被控訴人片柳は本件決議取消請求につき当事者適格を有すると解すべきである。よつて同被控訴人は附帯控訴をなし同被控訴人の請求によつても右決議の取消を求めると述べ、

(ロ)  控訴代理人は、昭和二十八年十一月十二日被控訴人片柳が控訴人会社代表取締役福原秀夫に対し辞任届(乙第一号証)を交付したのは単なる進退伺いのためのものではなく確定した辞任の意思表示である。このことは右届書が同被控訴人の自筆にかかり且同人が代表取締役に就任の際登記の為東京法務局に届出でたのと同一の印を押捺してあることからみても明白である。そして福原はこの届書を辞任の意思表示と解し代表取締役たる資格においてこれを受領したのであるから、ここに同被控訴人の辞任は完全に効力を生じたわけである。同被控訴人はその后右辞任の意思表示を撤回したことなく、また一旦有効に成立した辞任の効果を一方的意思表示により撤回できるものでもない。却て同被控訴人はその后自己の辞任を確認しこれを前提として行動をとつてゐたのである。と述べた。

二、控訴代理人は、当審において、新たに前記第一の一に掲げた登記抹消手続を求める権利の不存在確認の反訴請求を追加し、その請求原因として次の通り述べた。

被控訴人片柳の前記辞任については前記第一の一に記載の如くその登記を了したのであるが、被控訴人等は右辞任の事実を争いその登記の抹消手続を控訴人に対し請求してくるおそれがある。併しながら右登記は真実に合するものであるから、被控訴人等はこれが抹消手続を請求しうる権利を有しない。よつて被控訴人等に対し右請求権の不存在確認を求める。

三、参加人は、本件訴訟に参加し前記第一の三に掲げた判決を求める理由として、次の通り述べた。

参加人は控訴人会社の株主であると共に昭和二十六年五月二十一日その取締役兼代表取締役に就任し、その后昭和二十九年九月七日の本件株主総会において取締役に再選せられると共に代表取締役に就任したものである。本件株主総会決議取消請求は明らかに控訴人と参加人に合一にのみ確定すべき場合であるから、参加人は控訴人の共同訴訟人として右取消請求訴訟に参加し、前記の判決を求める。

四、当事者が提出、援用した証拠及び証拠の認否は、左記のものを附加する外、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

被控訴人等代理人は、当審において新に、甲第七号ないし第九号証、同第十号証の一ないし三、同第十一号証の一、二同第十二号ないし第十四号証を提出し、証河口静雄、平田繁、及び被控訴本人片柳真吉(第二回)の各尋問を求め、乙第二号証の一の片柳名下の印影の成立を認めその余の部分の成立は否認する、乙第四号証、同第二十一号、同第二十六号証は不知、同第五号証、同第二十二号ないし第二十四号証、同第二十五号証の一乃至三は成立を認む。と述べ

控訴人代理人は、当審において新に、乙第二十一号ないし第二十四号証、同第二十五号証の一、二、三、同第二十六号証を提出し、証人北島敏三、長野善三、宮内城戸、逸身泰之助、春名謙三、中村博、控訴会社代表者福原秀夫及び被控訴本人片柳真吉(第一、二回)の各尋問を求め、甲第七号ないし第九号証、同第十号証の一乃至三、同第十一号証の一、二の成立を認め同第十二号ないし第十四号証は不知と述べた。

理由

第一、被控訴人等の株主総会決議取消請求について。

I  被控訴人三共株式会社が控訴人会社の六万株の株主であること、昭和二十六年三月六日被控訴人片柳が控訴人会社の取締役兼代表取締役社長に就任したこと、当時控訴人会社の定款(旧定款)によれば取締役の任期は三年であつたが同年七月一日商法の一部を改正する法律の施行に伴い右定款が改正せられた結果この定款(現行定款)第十七条第十一条第二十一条及び商法の一部を改正する法律施行法(昭和二十六年法律第二一〇号)第二十条第二項により被控訴人片柳の右任期は被控訴人等主張の如く昭和二十九年五月末日迄に招集せらるべき定時株主総会の終結の日迄伸張せられたことは当事者に争いなく、また被控訴人片柳以外の控訴人会社は取締役七名(原審原告佐々木金太郎、藤山勝彦、長野善三、鈴木万平、控訴人会社代表者福原秀夫及び訴外北島敏三、同臼井皎二)も前記定款及び法律の規定上その任期が同日迄伸長せられてゐたことも本件弁論の全趣旨に徴し争いないものと認める。ところが同日迄に控訴人会社の定時株主総会が招集せられなかつたことも当事者間に争いがないから商法第二百五十八条第一項により被控訴人片柳は他の取締役等と共に同日以后も后任取締役の選任就職がある迄なお控訴人会社の取締役の権利義務を有してゐたところ、同年九月七日の本件株主総会において被控訴人等主張の如き后任取締役選任の決議がなされたのであるから、(かかる決議のあつたことは当事者間に争いがない。)これにより被控訴人片柳は同日限り取締役の権利義務を失うに至つたものといわなければならない。(控訴人は、それ以前である昭和二十八年十一月十二日被控訴人片柳は取締役を辞任したと主張するが、その主張の認められないことは后に説明する通りである。)

II  被控訴人片柳は本件株主総会の終結と共に取締役兼代表取締役社長の地位を失つたのであるから本件株主総会決議取消の訴につき当事者適格を有しないと控訴人は主張する。一般に株主総会の招集手続又は決議の方法が法令又は定款に違反する場合でも商法第二百四十七条による取消の判決が確定する迄はその決議は有効としなければならないから当該決議により解任せられ、又は后任取締役の選任があつた為に取締役たる権利義務を失うに至つた前任取締役がなお取締役として前記法条に定める取消の訴を提起できるかどうかは解釈上議論のあるところであるが、当裁判所はこれを積極に解するを相当と考える。けだし、かかる瑕疵ある株主総会の決議の効力を争うにつき直接且最大の利益を有するものはとりもなおさず右の前任取締役であるというべきであるから、その者がこれを争い得ないとすることはその者に対し自己の取締役としての地位を回復する手段を失わしめることとなり、条理に反する。殊に本件のような取締役選任決議に関して瑕疵ありとされる場合后任取締役は決議の取消により自己の取締役たる地位を失うわけであるからその者から進んで決議取消の訴を提起することは恐らく期待できないことであるから、もし前任取締役に訴提起の権能を認め得ないとすると、この種決議の瑕疵を是正する機会が著しく制限せられ株主総会の運営の適正をはかる為に取消の訴を認めた法の精神にも反する結果となる。従つて、前記商法の規定に定める取消の訴に関する限り、右の如き前任の取締役もまた現任の取締役に準じて右規定にいわゆる取締役中に包含せしめ、取消の訴を提起しうる権能を有するものと解するのが相当である。本件において被控訴人片柳は右に述べた前任取締役にあたることは前記説明から明かであるから本件決議取消の訴につき当事者適格を有するものと認むべく、この点の控訴人の抗弁は採用できない。

III  よつて、進んで被控訴人等主張の取消事由の有無につき考察する。

(一)  昭和二十九年九月七日の控訴人会社の株主総会において被控訴人等が本訴において取消を求める決議があつたこと、及びその外になお控訴人の主張する別の決議がなされたことは当事者間に争いがない。

控訴人は右のように株主総会において数箇の決議がなされた場合その内一箇の決議についてのみ取消を求めることは許されないと主張するが、この点については当裁判所もまた原審と同様控訴人の抗弁を理由ないものと認めるのであつて、その理由は原判決理由の記載(原判決十二枚目表八行目より同裏七行目迄)を引用する。

(二)(イ)  控訴人会社の定款第十一条によれば株主総会は取締役会の決議に基き取締役社長が招集することに定められてゐること、及び本件株主総会が社長でない代表取締役福原秀夫の招集したものであることは当事者間に争いがない。

(ロ)  被控訴人片柳が昭和二十六年三月六日控訴人会社の代表取締役社長に就任したことは前示の通りであるが、控訴人は、その后本件株主総会の以前である昭和二十八年十一月十二日同被控訴人は取締役兼代表取締役社長を辞任したと主張し、被控訴人等はこれを争うので、次にこの点につき判断する。

(1)  被控訴人片柳が昭和二十八年十一月十二日控訴人主張の場所で辞任届と題する書面(乙第一号証)を控訴人会社代表取締役であつた福原秀夫に手交したことは当事者間に争いがない。そして右書面には「責任を痛感し社長を辞任致し度につき御承認下され度お届け致します云々」の記載があることは成立に争いのない乙第一号証により明かであるから、この文面だけからすると、同被控訴人は右福原に対し辞任の意思を表示したかにみえる。

(2)  しかしながら、当審証人長野善三、河口静雄の各証言により真正に成立したものと認める甲第四号証と右各証言並びに原審及び当審における被控訴本人片柳真吉(当審は第一、二回)及び控訴人会社代表者福原秀夫の各尋問の結果(但し福原秀夫の供述中后記措信しない部分を除く)を綜合すると、控訴人会社は昭和二十八年頃事業不振の為経営困難に陥つたので、被控訴人片柳は社長としての責任上、前記の日に開かれた臨時取締役会の席上で一応辞意を表明しこれに対する賛否の意見を聞く目的で、その取締役会の開かれる直前に右の通り辞任届と題する書面を福原秀夫に手渡したのであるが、控訴人会社の取締役鈴木万平の代理として同取締役会に出席してゐた河口静雄は被控訴人片柳の辞任に反対し会社更生の為今后も社長として努力すべき旨を発言したところ、当日出席してゐた代表取締役福原秀夫、監査役井口良二、取締役藤山勝彦の代理人橋本徳二等はいづれも右発言に異議がなかつたので、被控訴人片柳もこれら出席役員の意向に従い引続き社長の地位にとどまることとなつたものと認められる。

(3)  しかのみならず、成立に争いのない甲第三号証竝びに原審及び当審における被控訴本人片柳真吉の尋問の結果(当審は第一、二回)を綜合すると、福原秀夫は被控訴人片柳より前記辞任届を受領した后である昭和二十九年二月中自身で同被控訴人をその自宅に訪ね辞任願と題する書面(甲第三号証、これによればこの書面の本文には「小職儀今般当社をして会社更生法の適用を受けるに至らしめた経営上の責任を痛感し代表取締役竝びに専務の職を辞任致し度く云云」と記載し宛名を「日本糧穀株式会社代表取締役社長片柳真吉殿日本糧穀株式会社取締役会殿」と記載し、日本糧穀株式会社代表取締役専務取締役福原秀夫の記名及捺印あることが明かである。)を同被控訴人に手渡し現に同被控訴人においてこれを保管してゐることが認められる。また、東京法務局日本橋出張所昭和二十九年九月十四日受付番号第七五六号を以て控訴会社の取締役兼代表取締役片柳真吉は昭和二十八年十一月十二日辞任した旨の登記がなされたことの当事者間に争ない事実と原審における控訴人会社代表者福原秀夫の尋問の結果によると、前記の通り福原秀夫は昭和二十八年十一月十二日被控訴人片柳から辞任届を受取つたけれども同被控訴人が辞任した旨の登記手続を控訴人会社がしたのはその后約十ケ月を経過し本件株主総会の終結后である昭和二十九年九月十四日であつてその間右辞任届は福原の手許に保管してゐたことが認められる。

(4)  右(2) 及び(3) で認定した事実を綜合的に観察するときは前記辞任届及び辞任願と題する書面は畢竟被控訴人片柳及び福原秀夫がそれぞれ控訴人会社の代表取締役社長または代表取締役専務としての会社運営の責任上いわゆる進退伺いの趣旨で儀礼的に授受されたに過ぎないもので、真に辞任の意思を表示したものでなく、従つていづれも辞任の効果を発生するに由ないものと認めるのが相当である。

(5)  控訴人は、被控訴人片柳の辞任届は同人の自筆にかかり且法務局に届出ずみの印を押捺してあることからみても確定した辞任の意思表示であると主張し右辞任届が被控訴人の自筆であること及び印影が控訴人主張の如き印のそれであることは原審における被控訴本人片柳真吉及び控訴人会社代表者福原秀夫の各尋問の結果からこれを認めることができるけれどもそのことを以て直に右控訴人の主張を認めて前記認定を覆すに足る資料とはなし難い。

(6)  また、当審証人宮内城戸の証言竝びに原審及び当審における被控訴人片柳真吉及び控訴人会社代表者福原秀夫の尋問の結果によると、被控訴人片柳は(い)昭和二十八年十一月以后控訴人会社に出勤してゐないこと、(ろ)給料の支払を受けてゐないこと、(は)控訴人会社に置いてあつた事務決裁用の印を引揚げたこと等の事実を認めうるけれども、一方において、成立に争いのない甲第十号証の一乃至三及び同第十一号証の一、二原審における被控訴本人片柳真吉の尋問の結果により成立を認めうる甲第五号証に原審及び当審における右被控訴本人の尋問の結果(当審は第一、二回)を綜合すると、被控訴人片柳は(に)昭和二十九年一月食糧庁長官宛に「黄変米の欠滅理由について」と題する報告書を控訴人会社の取締役社長名を以て提出し、(ほ)また同年二月五日及び八日の衆議院決算委員会に同じく社長としての資格において参考人として出席してゐることが認められるので、たとい前記(い)ないし(は)の事実があつてもその他の(に)(ほ)の如き事実と彼此併せ考えると、必ずしも被控訴人片柳の辞任を肯認すべき資料となすに足りない。

(7)  当審証人逸身泰之助、同春名謙三の証言、原審及び当審における控訴人会社代表者福原秀夫の尋問の結果竝びに乙第二号証の一、同第八号証ないし第十号証、同第二十一号証中の以上(1) ないし(6) の認定に反する供述及び記載は右に引用したその他の証拠に照らし措信し難く、控訴人のその余の立証を以てするも上記認定を覆し、控訴人の主張する片柳辞任の事実を認めるに足りない。

(ハ)  そうすれば、本件株主総会の招集当時被控訴人片柳がなお控訴人会社の代表取締役社長としての権利義務を有してゐたものと認むべきであるから、それにも拘らず社長でない福原秀夫が本件株主総会を招集したことは前記定款の規定に違反すること明かであるから、被控訴人等の本訴決議取消請求は爾余の取消事由につき判断する迄もなく正当として認容すべきである。

第二、控訴人の反訴請求について。

I  控訴人(反訴原告)は、第一に、被控訴人片柳真吉(反訴被告)に対し、同人が控訴人会社の取締役兼代表取締役社長でないことの確認を求めるのであるが、同被控訴人は原審において控訴人に対し、自己が控訴人会社の取締役兼代表取締役社長であることの確認を求めたところ、昭和三十一年二月十三日任期終了を理由としてその請求を棄却する旨の判決の言渡を受けたことは記録上明かである。この判決は未だ確定していないのであるから、控訴人の右訴は原判決の「理由」四に記載してあるのと同じ理由からこれを却下すべきものであり、ここに原判決の右理由を引用する。

II  次に、控訴人は、被控訴人等に対する反訴請求としてこの判決の「事実」第一の一に掲げた登記抹消手続請求権の不存在確認を求めるので、審按するに、東京法務局日本橋出張所昭和二十九年九月十四日受付番号第七五六号を以て控訴会社の取締役兼代表取締役片柳真吉は昭和二十八年十一月十二日辞任した旨の登記がなされたことは当事者間に争ないが、片柳真吉は控訴会社の取締役兼代表取締役を辞任した事実がないことはさきに判示した通りであるから、右登記は真実に反するものである。しかしこの点は暫く措き、右第二のIに記載の通り、被控訴人片柳が控訴会社の取締役兼代表取締役でないことが判決によつて宣言せられ、この判決につき同被控訴人から今日に至るまで不服の申立がない(記録上明かである)事実から推究すると被控訴人等が控訴人主張の登記につきその抹消手続をなすべきことを控訴人に対し請求し或は請求するおそれがあるとは認められないから、この点において右反訴請求は確認の利益を欠くものとして、棄却すべきである。

第三、参加人の請求について。

参加人福原秀夫は被控訴人等と控訴人間の本件株主総会決議取消請求訴訟につき、民事訴訟法第七十五条により控訴人の共同訴訟人として参加し被控訴人等の請求を棄却する旨の判決を求めるというのであるが、控訴人は右取消訴訟の被告であるから、第三者たる福原が控訴人の共同訴訟人としてこれに参加する為には同人が右取消訴訟につき被告となりうる適格を有する場合でなければならない。ところが商法第二百四十七条による決議取消の訴において被告となりうる適格を有するものは会社のみであつてその他の第三者はかかる適格を有するものでないと解すべきであるから、参加人福原の参加申出は不適法として却下すべきである。

第四、以上説明の通り、被控訴人両名の本件株主総会決議取消請求は正当として認容すべく、控訴人の反訴請求はそれぞれ前記の理由によりこれを却下又は棄却すべく、参加人の参加申出は不適法として却下すべきである。原判決はここになすべき判決と一部異るから、これを変更し、訴訟費用は民事訴訟法第九十六条、第九十四条、第八十九条に従い主文末項の通り負担を定めた。

(裁判官 奥田嘉治 牧野威夫 岸上康夫)

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